はじめに

私はこれまで、どうしても書き残しておかなければならないこととして、毎日新聞経営企画室時代の国有地払い下げ交渉と大阪本社の土地活用問題を「特命転勤」(文芸春秋社)で、また終戦直後の朝鮮・仁川(現インチョン)の混乱の様子を「降ろされた日の丸」(新潮新書)で公表してきた。 しかし私にはまだまだ書き残さなくてはならないことが沢山ある。例えば作家の深沢七郎さんのことである。深沢さんと私は昭和32年から2年余、極めて近しい関係にあった。「楢山節考」で一躍有名になってから「風流夢譚」の構想を練り始めるころまで、作家として最も充実していた時期である。 これまで人に話したこともなかったが、令和時代が始まるとほぼ同時に私は81歳になった。残された時間はそう多くない。そういえば令和の典拠となった万葉集は深沢さんの唯一の愛読書だった。これを機に、ときに時事評論を交えながら綴っていきたい。

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