中国のメディア、今日頭条はつい先ごろ「日本のエンジンを研究して数十年経つがいまだに理解できないのはなぜか」という論文を掲載した。設計図を手に入れてそれに従って製造しても、何十台も分解して調べても、日本製には敵わないというのである。編集部の推定では、素材に差があること、日本は熱間加工していることではないかと結論をだしている。
エンジンについて私には忘れられない体験がある。昭和49年(1974)の秋だったと思う。私は毎日新聞中部本社経済部で自動車担当をしていた。当時は自動車の50年排ガス規制を各社がどうクリアするかが焦点になっていた。中部本社管内ではトヨタがメインだが岡崎に三菱自動車岡崎工場がありそこも重要な取材先だった。
ある晩、私は岡崎在住の技術担当の家に夜回りをかけた。トヨタの副社長宅から回ったので、時刻は午後10時半を過ぎていた。それでも応接間にあげてもらえた。三菱の排ガス対策をいろいろ尋ねたが難しい技術のことを根ほり葉ほり尋ねるから時間はあっという間に過ぎる。すぐに11時半になった。
すると技術担当はしきりに時計を見てそわそわし始めた。「明日は休日だからまだいいでしょう」というと、「実はまもなく現代自動車の技術者が来ることになっているのです」と驚くべきことを口にした。「え、あの韓国の」と尋ねると「そうです。うちと現代が技術提携したのはご存知でしょう。設計図からなんからみんな渡しましたが、どうしてもいいエンジンが出来ないといって毎日来るんです。エンジンは設計図を見たからと言って作れるものではありません。数十、数百のノウハウが蓄積されています。ノウハウをマスターしないと作れません。そのノウハウを教えてくれと言ってきているのです。私が話したことはすぐに本社に伝え、実際に製作してその結果を報告してくる。なかなか全部はマスターできませんから、毎日のようにやってきて、足りないところをまた教えている訳です」
「いくら技術提携したからといってそこまでやることはないのでは」という私の問いに対して技術担当は「社として教えると約束した以上、面倒を見なくてはなりません」と答えた。
当時現代自動車は創立10年に満たない会社だった。しかし1か月以上にわたった技術担当への夜の訪問で、現代自動車はゼロ戦以来積み上げた三菱の生産技術をすべて習得したのだった。いまや現代自動車は世界有数の自動車会社に成長した。一方の三菱自動車は日産自動車の傘下でかろうじて生き残っている。